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コラム『家族だって他人』第37回 親を越えてすすめ


 思春期というのは、親の価値観を否定して、大人の作る社会に反抗して、親や大人の価値観とは違う自分の価値観を求めて戦い、自分とは何者かを打ち立てていく時期だ、と思う。

 もうだいぶ昔の話だけれど、中学生の頃の私も、中学生らしい潔癖さで大人のズルさや身勝手さを嫌っていた。そして、身近な大人よりも、自分の思想のために命をかけた歴史上の人物や、葛藤しながら成長していく小説の主人公の方に、親近感を覚えた。

 死ぬことは全然怖くなかった。むしろ生きて誰かを傷つけたり、自分の身可愛さに醜い行いをしてしまうことの方が怖かった。今の私からすると、眩しいくらいの清らかさで、失笑ものである。

 表面上親に反抗することはなかった私の、一番の大きな挑戦は、父の反対を押し切ってアメリカに交換留学したことだ。中学3年制の夏に試験を受けて、高校1年生の夏に生まれて初めて飛行機に乗って、アメリカのジョージア州に留学した。1年間のホームステイだった。

 私にとって、父親の反対を押し切ってのこの留学は、社会適応的な反抗期だった、と思っている。それまでは、親がダメだと言ったことは本当にダメだったし、叶わなかった。泣いても怒っても、決定して責任を取るのは親だった。でも、この留学のとき、私は父に何度反対されても負けなかった。留学試験の費用を、お年玉貯金から出し、合格を勝ち取った。出発の直前まではぶつぶつ言っていた父も、結果的には応援してくれたし、英語を獲得して戻ったことを喜んでくれた。

 それは私にとって、親が反対しても自分でやりたいと思ったことはやり抜くことが出来るし、やり抜くことで自分は成長し、親も結果的には応援してくれる、という学びになった。

 親は子どもに対して勝手に期待値を持って、この子はこの辺まで伸びるだろうと決めて接してくる。そのハードルはたいてい親自身の経験を元に設置されているので、子どもはそれを蹴飛ばして進んでいくのが正しい、と私は思っている。親の決めた基準なんて、蹴飛ばしたり、踏み越えたりして、自分の好きな方向にどんどん進めば良いのだ。それが若さの特権だ、と。将来の仕事につながらなくたって全然いい。その時に進んだ先に見た景色が、その後の人生をきっと豊かにしてくれる。

 もちろんその後に、何者でもない自分を受け入れたり、自分の限界と向き合ったりしながら、なりたくなかった「大人」になるステージに進むのだけれど。

 親になり、「大人」になった私は、死ぬことを恐れているし、昔ほど正義感に満ちてもいない。清濁併せ呑むようなこともある。でもそれは、ずるくなったのでも身勝手になったのでもなくて、単純に自分自身より大切な他者を持ったのだ、と思う。

 逆に言えば、若い頃に死ぬのが怖くなかったのは、自分以外の誰かに責任を感じていなかったから。正しさに拘れたのは、正論によって傷つけられる人に無頓着だったからだ。でも、若いときはそれで良いのだ。大人の価値観なんて踏み越えて、自分の正しさを求めて、新しい価値観を求めて、どんどん進め。そして世界を新しく作り変えてくれればいい。

 先に大人になった我々は、その姿を眩しく思いながら、これまでの自分の人生で培ってきた経験と知識を持って、ぶつかったり立ちはだかったりするから。もし君が倒れたら、起き上がるまで待つから、どうかどうか親を越えて進んでいって欲しい。

            (文責:M.C)


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