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コラム『家族だって他人』第47回 静かな世界 


 家の中に、自分以外の誰もいないと、とても静かだなと感じる。

 自分が小さい頃は、家に人がいないことも多く、学校から帰ってきたら、誰もいない家の中に向かって「ただいま」というのが習慣だった。

 誰もいない家に一人でいると、風の音や雨の音、だんだん暮れていく空。外を通る人の声、色々な外界の変化を身近に感じていたように思う。

 今は…というと、仕事や用事で出かけて家に帰ってくると、たいてい誰かしら家族がいる。もしくは、家族と一緒に帰ってきている。なので、居ないことというのがほとんどない状況がもう何年も続いていたので、ふと、家に帰ってきて誰もいないと、少し動揺する。

 静けさが身に染み入る。

 寂寞とした空間に戸惑いつつ、簡単な用事を済ませて、いつもの定位置に座ると、今度は心底落ち着くのである。

 一人でいるということには、どうしても静寂が伴う。もの寂しさは感じるであろう。しかし、その静けさと孤独の中に、騒がしくない落ち着いた開放感が存在する。

 いつも人のことを考え、他の人と一緒にいることが多く、自分以外の誰かや家族と暮らしている方が、落ち着く人もいるだろう。人の中にいる自分というのが自分にとってしっくりくるからだと思う。誰かへの対応、誰かからの反応、誰かから向けられる意識。これらは、どれも他者から見た自分を形作っている。私たちは、人からの反応を返してもらうことで、自分を再確認しているというのは、よく言われる話しである。
 
 誰も自分の周りにいなくなると、そういう反応が返ってこなくなる。人に意識を向けることが少なくなる分、自分に意識が向きやすくなる人もいるだろう。

 自分に意識を向けることに慣れていないときっと、一人というのは落ち着かない。

 しかし、少し、自分を取り囲む世界に意識を向けてみれば、たとえ人は自分だけであっても、一人ではないことに気づけるのではないか。

 時計の秒針は、常にカチカチと音を刻んでいるし、外からは、車の音や風の音、人の足音や声、何かしら聞こえてくる。空は、晴れたり曇ったり刻々と表情を変える。そのような穏やかな空間に身をゆだねていると、この世界の中に包まれている感じがしてくる。その感覚が安心感に繋がってゆくのである。
 
 生きていると色々なことがあるけれども、何となく壊れることなく続く世界と、日常。その一片を、こころの中に持っていることが出来れば、帰ってくる家族に、次の日に会う新しい誰かに、またいつも通りの自分で向き合えるのではないだろうか。

 だからこそ、自分や周りの世界が一変してしまうようなことが無いように、もし、世界が一変してもまた、もう一度やり直せますように。

 自分の日々を、家族との日常を、周囲の人との関りを、大事にしながら日々を重ねていけるようにと祈らずにはいられない。

           (文責:K.N)
 


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