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コラム『家族だって他人』第10回 父の苦悩


 イクメンというワードが出現して早くも10年以上。最近は男性が家事や育児をするのは当たり前だ、という風潮がある。長引く不景気で、男性の側もひとりで家計を支えるプレッシャーに耐えながら働くより、家事も育児も家計も、妻と分担し合う方がいい、と考えるようになっているようだ。

 しかし、そうした若い世代の男性にとって、家庭に参加する父親のイメージは朧げで曖昧だ。家事や育児を妻に任せっきりにしない夫は、家庭でどう振る舞うかのロールモデルが無いのだ。

 「僕はATMにはなりたくないので、専業主婦希望の女性は嫌ですね」

 とやや怒気を含んで話す男性に会うことがある。彼の中で、家にいない父はお金を稼ぐだけで、さながら母のATMのようだと感じていたからなのか、そういった話をインターネットで見かけるからなのか。まあ、それは分かる。では、ATMのようではない父とは妻や子に対してどう振る舞うのか。俺はATMじゃない、俺の金はお前たちにはやらん、という態度は、家庭生活を円満に行うという観点では不正解だ。お金を持ってくるだけで家の中に不在だった父を否定し、外で働かずに家事育児だけをしていた母を否定するだけでは、自分が夫として父としてどう振る舞うべきかは分からない、ということである。

 良くも悪くも、家庭における母親たちの存在感は大きかった。こんなことをしてもらった、あんなことが嬉しかった、これは嫌な思い出、あんな真似は絶対しない… 良いことも悪いことも含めて、参照することが多い。もちろん、子どもをネグレクトする母も、母親不在の家庭もあるのだが、ネグレクトしていたとしても、母の不在は父の不在以上に大きなインパクトを残す。それは、日本社会において、父親が家庭に参加しないことが、当たり前のことや、仕方がないこととして、放置されてきたからだ。そして、男性たちはいわゆる社会で、(つまりは男社会のことなのだが)長時間の労働に勤しみ、居場所や役割を見出す一方で、家庭での居場所を無くしていった。

 こうして現在、家庭に参加したい、家事育児を積極的にしたい、と思う男性たちの多くが、家庭における父親のロールモデルを持たない、という事態に陥っている。そして、それに苦しんでいる男性も少なくない。

「自分の両親は仲が悪かったから、夫婦が仲良く暮らすイメージが持てない。」

「自分は自分の父親が嫌いだから、良い父とはどういうものか分からない。」

 カウンセリングの場でそう率直に話してくれる方もいるし、歳をとってから、家族とのコミュニケーションがうまく取れず、家庭に居場所がない高齢の父親たちも多くいる。家族のために頑張って働いてきたのに…というボヤキが聞こえてきそうだ。日本の父親たちの悲しいことよ。

 家庭における父親のイメージがないのは、女性の側も同じだ。だから、夫は家事育児に参加する気満々なのに、家のことに口出しされたくない、と思う妻がいたり、あれもこれもして欲しい、と夫に過剰に期待する妻がいたりする。

 さて、どうしようか。はじめの一歩は、自分の気持ちを話すこと、相手の声に耳を傾けること、これにつきる。

「僕は、きみや子どもたちに頼りにされて、感謝されるようなお父さんになりたい」

とか、

「娘に、『カッコイイ! パパと結婚したい!』と言われるようになりたい」

とか。
素直に口に出してみよう。自分がどうなりたいのかが分からなければ、まずはそこを考えるといいだろう。

 男性たちの素直な気持ちに、妻や子どもはなんと答えるだろうか。

「もう十分感謝してるよ、もっと伝えるようにするね」

と言ってくれるかもしれないし、

「〇〇してくれるようになったらもっと頼りになるな」

と教えてくれるかもしれない。あるいは、

「無理無理、あなたにはそんなことは期待してないわよ。あなたの良いところは✕✕だから、そんなことは出来なくていいの」

と自分の気づかない長所を教えてもらえるかもしれない。

 良い父のロールモデルがないことを逆手にとって、家族と一緒に、自分達家族にとっての正解をつくっていこうじゃないか。
                         (文責 C.M.)

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