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コラム『家族だって他人』第9回 鏡は何を映すのか


「子は親の鏡」

 なんて、ことわざがもし仮に無くても、なんで、この子はこんなに自分のダメなところが似ているんだろう? とか、ダメなところが夫にそっくり!と、思ったことが、子を持つ親なら一度ぐらいはあるのではないか?

 曇りなき鏡は本当によく、見たくないところを映す。そんなことを思う。

 でも、少し不思議だなと感じることがある。とてもよく映す鏡は何で、そんなに嫌なところやダメなところばかり映すのか。鏡なのだから、良いところも映していいと思う。なのに、目立つのは、あんなところやこんなところ。自分はこの欠点で苦労したけど、せめて子どもには同じ苦労はさせたくないとか。そんなことを考えてしまったり。そして、何とも言えない気分になっているところに、ダメ押しみたいに、

子は親の鏡とは、

『子供は親から多大な影響を受ける、という意味で用いられる言い回し。子供の振る舞いを見れば親の考え方や品性の程が窺い知れる、といった意味合いで訓戒のように述べられる場合もある。』
                   実用日本語表現辞典(2021)

などと言われてしまったら、もう立ち直れないじゃないか。

 でも、鏡は特に嘘はついていないはず。それならば、鏡に問題があるわけではなく、映る姿を見る人の側にきっと、見えているものと見えていないものがあるに違いない。

 心理学の用語に「投影」というものがある。

『自分の葛藤に満ちた衝動を他人のものとみなすこと』
             鑪幹八郎 監修,力動精神療法入門(1999)

ということを意味する。これは、自分の嫌だなって思っている部分を相手が持っているものと思い込んで、自分はそういう嫌な面は持っていないって思うことをいう。

 例えば、なんで、この子はこんなにダメなの! 全然自分と違う! 何なら夫に似たんじゃないの? と思っていたりすることが、実は自分では気づいていないだけで、自分の嫌な部分を映しているときに使われたりする。日常生活の中で、誰にでも起こりえる無意識の心の働きの一つである。

 このような、無意識の人の心の働きを知ると、人は自分で思っているよりも、物事をありのままを見ているとは言い難いようだということに気付く。

 それを踏まえた上で改めて考えてみると、子どものダメな面というのは、さて、本当にダメなところなのだろうか? 単純に自分や夫に似た欠点を持っているのだろうか? 実は、自分のコンプレックスを子どもに投影しているだけではないか? 他者から見れば何ともないところかもしれないのではないか? 遺伝なのか、育て方なのか? 気のせいなのか? 鏡の中に映る鏡のように問いはどんどん広がっていく。

 少し落ち着いて考えてみよう。たとえ、育て方であれ、遺伝であれ、自分の投影であれ、どれも鏡に映ったものを自分が読みとった結果に過ぎない。どれが本当かなんて、簡単に見つからない。

 それならば、単純に良い部分より悪い部分の方に目がいきやすいだけなのではと考えると、気が楽になってきそうな気がする。

 ちょっとだけ、鏡ではなく自分の目が曇っていて、ちょっとだけ、マイナス方向に見えてしまうだけかもしれない。そのせいで、もしかしたら他の人から見たら良い部分って思えるところすら、悪い部分だって思い込んでいるのかもしれない。なんなら、良い部分を見落としているだけなのかも。

 白雪姫の継母は、鏡に映った白雪姫を、世界で一番美しいからといって妬んだけれども、子は親の鏡というのなら、もしかしたらそこに映っていたものは、継母自身の美しさも現していたかもしれない。それなのに、継母が自分よりも美しいものを許せなかったために、悲劇は起こってしまった。こういう悲劇は、そこかしこに今も転がっているのではないか。

 そんな現代の世の中で、白馬の王子さまは現れそうもないし、大事にしている鏡は全然自分の思い通りにはなってくれない。だからと言って、今更、悪い魔女にもなりたくない。

 それならば。

 もう少し、自分に甘くなってもいいかもしれない。自分を許せることが、他人を許せることにつながることもあるはずで。もう少しだけ、良いところを見つけられるような、ものの見方を練習するのも悪くないかもしれない。一つ新しい方法を見つけたら、少しだけ変われるかもしれない。

 そんなあれやこれやを、少しだけでも試してみると、もう少しだけ、子どもにも自分にも優しくなれそうである。(文責:K.N)



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