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リレー書簡コラム『拝啓、みこと心理臨床処 様』第48回「こころってなんだ?」


「心とはなんぞや」とは、また大きな問をぶつけてきましたね。

見ることも、触ることも、質量を測ることも出来ない、つまり存在を科学的に証明することが出来ない「心」というものを、在ると仮定して、測り、分析し、学問にしよう、という、心理学の始まりからして、「心」とは明確に定義が出来ないものです。(操作的定義は色々とあるでしょうが)

けれど、我々は「心」の存在を、難なく信じることが出来ます。それは、「心」は痛んだり、高鳴ったり、弾んだり、張り裂けたり、晴れたり、沈んだり・・・ いつも我々と共にあるからです。

心は、身体の一部のようであり、全く別の何かのようでもありますね。心をうまく感じたり、表現したりすることが出来ないとき、私達の身体は、お腹が痛くなったり、頭が痛くなったりして、心の不調を訴えかけてきます。そういうときは、心は実態がないから、身体を使って表現するのかな、と思いますが、トラウマ記憶は身体に記録されるため、PTSDの患者さんは身体を感じるのが苦手だという側面もあります。やはり、心と身体は不可分なものでしょう。

これは、私の個人的な、(しかも一時的かもしれない)考えですが、こころは、意識や、認知や、感覚などの総体のことではないかと思っています。そして、その総体には、意識や情動のように名前をつけられないなにかも含まれている気がします。

「心」を腑分けしていくと、意識、無意識、感情、情動、直感・・・となって、それぞれ定義も理解もしやすくなるのですが、それらを全て寄せ集めても、「心」というには少し足りない・・・こぼれ落ちる部分があるように思うのですね。ちょうど、個人と社会のような関係です。個人を全部足していっても、社会にならないような。 そしてその総体、「心」がすっぽり収まっているのが身体です。

心は身体であって、身体は心でもあるということを、私達は経験的に知っています。心が痛むとき、私達は胸に手を当てます。悩んだとき、頭が痛いと言います。気持ちが焦ると身体はじっとしていられなくなります。こんな例は枚挙に暇がありません。

では、心=身体か、と問われると「否」となるのは、やはり「心」は意識や認知や情動などの総体という観念的なものであって、物理的な実態はないからです。一方、身体には実態があります。でも、身体=入れ物、心=中身、みたいな単純なものでもないのです。心は身体を通じて、知覚しますし、身体を通じて表現しますから。

それで「ココロとカラダ、にんげんのぜんぶ、オ☓☓☓☓」と某企業広告のキャッチコピーは正しいな、とか思っちゃうわけです(笑)

そして、臨床の心理学者である我々にとっても、「心」と向き合うということは、クライエントさんの全部と向き合う、つまりその方の心だけでなくて、身体も、暮らしも、歴史も含めて、その人のまるごとと向き合う(全人的という言い方をします)ということです。

だから、個人の心の話を聞きながら、その向こうに、今の社会や、歴史を見ることが多々あります。今年も三軒茶屋の小さのお部屋でお仕事をしながら、カウンセリングとは、ミクロなお仕事でありながら、本当に深くて広い世界に繋がっているなとつくづく感じておりました。

今年は、三人のリレー書簡として続けてきたこのコラムですが、来年はカウンセリング室から見える、「人の心と暮らし」のお話をしたいですね。読んだ人が、自分を含めた「人」に興味を持ったり、優しくなれたり、面白がれたりするような。って、ハードル上げすぎでしょうか(汗)。

それでは、これまでみこと心理臨床処と多少でもご縁のあった皆様のご多幸をお祈りしつつ、3人で恙無く、忘年会でもしましょうね。二人の顔を見ながら、美味しいものでもつまむのを楽しみにしています。

             (M.C)

追伸 今年一年連載したリレー書簡コラム、『拝啓、みこと心理臨床処様』は、今回が最終回です。年明け、新しく始まる連載コラムにご期待ください。


コラム(テキスト版)倉庫

リレー書簡コラム『目次』
2023.12.25 リレー書簡コラム最終回「こころってなんだ?」
2023.12.18 リレー書簡コラム第47回「心とはなんぞや」
2023.12.4 リレー書簡コラム第46回「優しさの味」
2023.11.27 リレー書簡コラム第45回「優しさのお届けもの」
2023.11.20 リレー書簡コラム第44回「後ろめたくて寂しい日」
2023.11.13 リレー書簡コラム第43回「 友がみなわれよりえらく見ゆる日は」
2023.11.6 リレー書簡コラム第42回「雨に歌えば」
2023.10.30 リレー書簡コラム第41回「ときには立ち止まること」
2023.10.23 リレー書簡コラム第40回「前がダメなら上へ」
2023.10.16 リレー書簡コラム第39回「虎穴に入らずんば虎子を得ず」
2023.10.9 リレー書簡コラム第38回「スモールステップの罠」
2023.10.2 リレー書簡コラム第37回「好きと嫌いと苦手と得意」
2023.9.25 リレー書簡コラム第36回「言葉にできない」
2023.9.18 リレー書簡コラム第35回「苦手な人」
2023.9.11 リレー書簡コラム第34回「耳をすませば」
2023.9.4 リレー書簡コラム第33回「心地よいリズムで」
2023.8.28 リレー書簡コラム第32回「五感スイッチ」
2023.8.21 リレー書簡コラム第31回「力まず 軽く参りましょう」
2023.8.7 リレー書簡コラム第30回「あぁ、夏休み」
2023.7.31 リレー書簡コラム第29回「Message in a bottle」
2023.7.24 リレー書簡コラム第28回「カオスと灯台とボイジャー 」
2023.7.17 リレー書簡コラム第27回「混沌の中で」
2023.7.10 リレー書簡コラム第26回「結論は先延ばしで」
2023.7.3 リレー書簡コラム第25回「正しいこと、本当のこと」
2023.6.26 リレー書簡コラム第24回「心の旅」
2023.6.19 リレー書簡コラム第23回「ひとり時間 ひとり旅」
2023.6.12 リレー書簡コラム第22回「誰かのために整えること、一人でいること」
2023.6.5 リレー書簡コラム第21回「あれもこれも失敗じゃない」
2023.5.29 リレー書簡コラム第20回「解釈違いは健全に」
2023.5.8 リレー書簡コラム第19回「手紙に着いてのあれこれ」
2023.5.1 リレー書簡コラム第18回「愛を込めてお手紙を」
2023.4.29 リレー書簡コラム第17回「声の力」
2023.4.22 リレー書簡コラム第16回「意外性の模索」
2023.4.15 リレー書簡コラム第15回「チャットGPT」
2023.4.8 リレー書簡コラム第14回「知らないものは探せない」
2023.4.1 リレー書簡コラム第13回「エネルギーの循環」
2023.3.25 リレー書簡コラム第12回「攻撃性スイッチ?」
2023.3.18 リレー書簡コラム第11回「攻撃性の行方」
2023.3.11 リレー書簡コラム第10回「失われた遊び」
2023.3.4 リレー書簡コラム第9回「遊びごころ」
2023.2.27 リレー書簡コラム第8回「本気で遊ぶ」
2023.2.20 リレー書簡コラム第7回「場を作る」
2023.2.13 リレー書簡コラム第6回「息をつく場所」
2023.2.6 リレー書簡コラム第5回「三茶徒然日記」
2023.1.30 リレー書簡コラム第4回「さてさて、」
2023.1.23 リレー書簡コラム第3回「返信への返信」
2023.1.16 リレー書簡コラム第2回「返信」
2023.1.9 リレー書簡コラム『拝啓、みこと心理臨床処 様』第1回
2023.3.14 連載『家族だって他人』タイトル一覧表
2021.12.3 第8回 顧問なのかマスコットなのか
2021.11.6 第7回 時の過ぎゆくままに
2021.10.12 第6回 こだわりの…。
2021.9.10 第5回 出会うために、出会う。
2021.7.21 第4回 ほどよさのススメ―人間関係における圧について
2021.7.12 第3回 ケアに疲れたあなたへ
2021.6.30 第2回 気持ちに名前をつけてみる―ストレスと上手につきあうために
2021.5.21 第1回 人生のテキストと歴史という布 ―始まりの言葉に代えて―

 

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