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リレー書簡コラム『拝啓、みこと心理臨床処 様』第32回「五感スイッチ」  


 力んでいるつもりは無くても、知らぬ間に肩に力が入ってしまうのかも知れませんね。ふと気づいて深呼吸をすると、吐き出す息と一緒に力が抜けて、心地よいことに気づきます。

 肩に力が入って硬直してしまうときって、なんとなくですが、頭でっかちになっているときのような気がします。つまり、思考優位で「考えてばかりいる」とき。デスクワークもそうですし、人の目が気になって緊張しているときも、相手からどう見られるか、自分はどう振る舞えばいいか、ずっと考えていますよね。やらなければいけないことになかなか手を付けられない、というのも、「その仕事の大変さ」を考えすぎているから、手がつけられないのかも知れません。まずは手を動かしてみる、というのは、思考を手放してみる、ということと同義なのかも知れないな、と思いました。

思考を手放すってどうやって? 

 思考を手放そう、手放そう、と「考えて」もなかなか出来ませんよね。一つの方法が、五感(一般的に視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚)のスイッチをONにすること、五感で外からの情報を受け取ることなのかなと私は思います。

 このコラムを宿題として携えて、軽井沢に2日ほど行っていたのですが、山道を歩いていると、五感で受け取る刺激がとても多くて、意識しなくてもリラックスと緊張のちょうどよいバランスを保っていられます。
 
目に飛び込む木々の緑、苔、石、モゾモゾと地面を動く虫たち。水の流れる音、蝉の声、人の足音、風が木々を揺らす音、どれも耳に心地よい。滝に向かって山道を登っていくと、少しずつ温度が下がっていくし、木漏れ日が肌に当たればそれも感じます。土の匂い、木の匂い、苔の匂い、どこかから温泉が湧いているのか、空気に硫黄の匂いが混じることもあります。地面を踏みしめて坂道を上がる足にかかる自分の重み、額にじんわりにじむ汗。

自分の身体を、都会に居るときよりもしっかりと感じることが出来る気がします。不意に茂みから蛇が出てくることもあるし、足場が悪いところもありますから、注意して進まなければいけないので、程よく緊張しています。

 肩の力を抜いて楽しくおしゃべりしているときも、こんな感じで五感のスイッチが自然とONになっているのかもしれません。

もちろん相手のおしゃべりを聞いて考えてもいるのですが、思考だけではない状態です。相手の話の中身だけじゃなくて、声のトーンやリズムを聞いて、表情を見て、お互いの波長があっていると、なんだか心地よくて楽しくなるのです。気のおけない仲間と散々喋って笑って家に帰ったけど、何を話していたのかと聞かれても答えられないことってありますよね。
それは

「何を話したか」

よりも、

「波長が合って楽しい雰囲気を共有したこと」

が大事だということかも知れません。

 みことの三人で集まると、心地よいリズムだけで話をしてしまって、なかなか実務的な話が進まない、という問題が生じることもあります(苦笑)。

 ちなみに、カウンセリングをしているとき、私の五感スイッチは完全にONです。私の臨床的な興味が身体感覚へのアプローチに移行してきているので、ここ数年特にそうなのですが、クライエントさんの話を聞くだけではなくて、表情や姿勢や呼吸を観察しているし、自分の内側の感覚にも注意を払って、相手にチューニングしていきます。

ただ、森の中に居るときと違って、意識をクライエントさんに集中しています。集中力を要するので、長時間は続けられませんが、思考優位で肩が凝るような集中とは違うんです。頭だけでなくて身体感覚を使って働いている感覚がはっきり在るのですが、おふたりはどうでしょうか。お二人の臨床の感覚、聞いてみたい気がします。
                 (M.C)


コラム(テキスト版)倉庫

リレー書簡コラム『目次』
2023.8.28 リレー書簡コラム第32回「五感スイッチ」
2023.8.21 リレー書簡コラム第31回「力まず 軽く参りましょう」
2023.8.7 リレー書簡コラム第30回「あぁ、夏休み」
2023.7.31 リレー書簡コラム第29回「Message in a bottle」
2023.7.24 リレー書簡コラム第28回「カオスと灯台とボイジャー 」
2023.7.17 リレー書簡コラム第27回「混沌の中で」
2023.7.10 リレー書簡コラム第26回「結論は先延ばしで」
2023.7.3 リレー書簡コラム第25回「正しいこと、本当のこと」
2023.6.26 リレー書簡コラム第24回「心の旅」
2023.6.19 リレー書簡コラム第23回「ひとり時間 ひとり旅」
2023.6.12 リレー書簡コラム第22回「誰かのために整えること、一人でいること」
2023.6.5 リレー書簡コラム第21回「あれもこれも失敗じゃない」
2023.5.29 リレー書簡コラム第20回「解釈違いは健全に」
2023.5.8 リレー書簡コラム第19回「手紙に着いてのあれこれ」
2023.5.1 リレー書簡コラム第18回「愛を込めてお手紙を」
2023.4.29 リレー書簡コラム第17回「声の力」
2023.4.22 リレー書簡コラム第16回「意外性の模索」
2023.4.15 リレー書簡コラム第15回「チャットGPT」
2023.4.8 リレー書簡コラム第14回「知らないものは探せない」
2023.4.1 リレー書簡コラム第13回「エネルギーの循環」
2023.3.25 リレー書簡コラム第12回「攻撃性スイッチ?」
2023.3.18 リレー書簡コラム第11回「攻撃性の行方」
2023.3.11 リレー書簡コラム第10回「失われた遊び」
2023.3.4 リレー書簡コラム第9回「遊びごころ」
2023.2.27 リレー書簡コラム第8回「本気で遊ぶ」
2023.2.20 リレー書簡コラム第7回「場を作る」
2023.2.13 リレー書簡コラム第6回「息をつく場所」
2023.2.6 リレー書簡コラム第5回「三茶徒然日記」
2023.1.30 リレー書簡コラム第4回「さてさて、」
2023.1.23 リレー書簡コラム第3回「返信への返信」
2023.1.16 リレー書簡コラム第2回「返信」
2023.1.9 リレー書簡コラム『拝啓、みこと心理臨床処 様』第1回
2023.3.14 連載『家族だって他人』タイトル一覧表
2021.12.3 第8回 顧問なのかマスコットなのか
2021.11.6 第7回 時の過ぎゆくままに
2021.10.12 第6回 こだわりの…。
2021.9.10 第5回 出会うために、出会う。
2021.7.21 第4回 ほどよさのススメ―人間関係における圧について
2021.7.12 第3回 ケアに疲れたあなたへ
2021.6.30 第2回 気持ちに名前をつけてみる―ストレスと上手につきあうために
2021.5.21 第1回 人生のテキストと歴史という布 ―始まりの言葉に代えて―

 

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