head_img_slim
HOME > コラム(note)のページ >リレー書簡コラム『拝啓、みこと心理臨床処 様』第27回

リレー書簡コラム『拝啓、みこと心理臨床処 様』第27回「混沌の中に」  


 「誠実」と「真実」この二つが、好きな言葉だと、私が中学生の頃に教わった先生が
言っていたのを思い出す。

 私は、当時からこれらの言葉が、苦手だった。清廉潔白な、「誠実さ」よりも、混沌とした泥臭さの中にも何か大事なものがあるような気がしていたし、「真実」などというものを元々信じていなかった。
 
 あなたの「ほんとう」は、私の「ほんとう」とはきっと、同じとは限らないのだから。

 ということで、実は昔から「正しさ」にも「ほんとうのこと」にもあまり、興味が無かった。ただ、「正統派」には、憧れていた。自分には手に入らないし、それだけを手に入れたいとも思わないけれども、横道に逸れず正統派を貫く姿は、美しいので。

 そんなこんなで、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』は、アニメで見た記憶はあるけれども、それ以上でもそれ以下でもなく、どちらかというと宮沢賢治は、詩の方が好きである。

雨ニモマケズ
風ニモマケズ
雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ
丈夫ナカラダヲモチ

はたらけど
はたらけど猶わが生活楽にならざり
ぢっと手を見る


という感じに。と思ってから、気が付く。
そう言えば、ぢっと手を見るのは石川啄木だった…。宮沢賢治の詩を全部覚えてなかったので、石川啄木の短歌と混じってしまった。良く分からないことを言い出してしまって、混乱した方がいたら申しわけない。

 しかも、よくよく背景をみると、石川啄木は、丈夫な体をもっていなかったらしいし、品行方正というわけでもなかったようだ。相反するものを組み合わせてしまった。

 と、話題が脱線というか、どんどん混沌と化してしまいそうなので、この辺で宮沢賢治の話題は切り上げよう。


 一つのものの中には、色々なものが色々と混じっていて、純粋なる一つのものというのは、少ないのではないかと思う。少ないゆえに純粋なものは貴重なものとしてみられがちであるが、色々なものが混じって、その時々で違う姿を見せるものも、良いのではないかと思う。
 
 そこに、自分だけの物語。自分だけの大事なもの。ぱっと見なんの変哲もない同じようなものの中にも、自分にとっての違いがあれば、面白いように思う。
 
 きっと、自分だけではよく分からない、はっきりしないで混沌と色々なものがまじりあっている気持ちや考えも、一つずつを掬い上げて、名前をつけたり愛おしんだり、要らなかったと捨ててみる。その作業は、大変だけれども意味のある作業ではないかと思う。それを、二人で話し合いながら行うのが、カウンセリングの一つである。そうすると、混沌が混沌じゃなくなるのかもしれないし、混沌だと思ってなかったものが混沌であると理解されるかもしれない。

 混沌の中に、何か貴重なものを見つける必要は、必ずしもない。自分にとって、何となく意味があるような、少し整理されるような、そんな経験の中で、少しだけ何かが変わることもあるだろう。少しすっきりしたり、混ざったものを混ざったものとして少し楽しめるようになったりすることもあるだろう。

 そんな風にささやかな変化を見つけられるカウンセリングも、みこと心理臨床処では、提供していきたいと思っている。

                   (K.N)


コラム(テキスト版)倉庫

リレー書簡コラム『目次』
2023.7.17 リレー書簡コラム第27回「混沌の中で」
2023.7.10 リレー書簡コラム第26回「結論は先延ばしで」
2023.7.3 リレー書簡コラム第25回「正しいこと、本当のこと」
2023.6.26 リレー書簡コラム第24回「心の旅」
2023.6.19 リレー書簡コラム第23回「ひとり時間 ひとり旅」
2023.6.12 リレー書簡コラム第22回「誰かのために整えること、一人でいること」
2023.6.5 リレー書簡コラム第21回「あれもこれも失敗じゃない」
2023.5.29 リレー書簡コラム第20回「解釈違いは健全に」
2023.5.8 リレー書簡コラム第19回「手紙に着いてのあれこれ」
2023.5.1 リレー書簡コラム第18回「愛を込めてお手紙を」
2023.4.29 リレー書簡コラム第17回「声の力」
2023.4.22 リレー書簡コラム第16回「意外性の模索」
2023.4.15 リレー書簡コラム第15回「チャットGPT」
2023.4.8 リレー書簡コラム第14回「知らないものは探せない」
2023.4.1 リレー書簡コラム第13回「エネルギーの循環」
2023.3.25 リレー書簡コラム第12回「攻撃性スイッチ?」
2023.3.18 リレー書簡コラム第11回「攻撃性の行方」
2023.3.11 リレー書簡コラム第10回「失われた遊び」
2023.3.4 リレー書簡コラム第9回「遊びごころ」
2023.2.27 リレー書簡コラム第8回「本気で遊ぶ」
2023.2.20 リレー書簡コラム第7回「場を作る」
2023.2.13 リレー書簡コラム第6回「息をつく場所」
2023.2.6 リレー書簡コラム第5回「三茶徒然日記」
2023.1.30 リレー書簡コラム第4回「さてさて、」
2023.1.23 リレー書簡コラム第3回「返信への返信」
2023.1.16 リレー書簡コラム第2回「返信」
2023.1.9 リレー書簡コラム『拝啓、みこと心理臨床処 様』第1回
2023.3.14 連載『家族だって他人』タイトル一覧表
2021.12.3 第8回 顧問なのかマスコットなのか
2021.11.6 第7回 時の過ぎゆくままに
2021.10.12 第6回 こだわりの…。
2021.9.10 第5回 出会うために、出会う。
2021.7.21 第4回 ほどよさのススメ―人間関係における圧について
2021.7.12 第3回 ケアに疲れたあなたへ
2021.6.30 第2回 気持ちに名前をつけてみる―ストレスと上手につきあうために
2021.5.21 第1回 人生のテキストと歴史という布 ―始まりの言葉に代えて―

 

お問い合わせはコチラまで

icon ご不明な点がございましたら、まずはお気軽にご相談下さい。
→お問合せフォームへ

→ご予約のお申込はこちらへ


 

ページトップに戻る