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リレー書簡コラム『拝啓、みこと心理臨床処 様』第43回「友がみなわれよりえらく見ゆる日は」


表題は

友がみなわれよりえらく見ゆる日よ 花を買い来て妻と親しむ

                            石川啄木

という石川啄木の有名な歌の上の句を少々変えてみたものです。こうしてほんの少しでも変えてみると、啄木の歌の才能と、彼が抱えた痛いほどの孤独がありありと伝わって来ますが、それはさておき。

 どうして自分だけ、という思いがもたらすものは本当に多岐にわたります。

 そんな時は自分というものが卑小に見えて仕方なく、新しいものに手を伸ばしたり新しい場所に足を踏み入れたりといったことは難しくなるような気がします。

 自分がそんな場所やものにふさわしいと思えなくなるから。

 そしてそうこうしていると「どうして」という言葉が「どうせ」へと変容していくこともあります。この「どうせ」という言葉は、新しくつくかもしれない傷を最大限回避するための呪文のようなもの。

 それが、上手な傷の回避の仕方かどうかは別の問題です。けれど自分や環境について「どうせ」と矮小化することに慣れてしまっている人は、子どもにも大人にも結構いる。

 啄木が「どうして」と思ったか「どうせ」と思ったか、本当のところはもちろんわかりませんが、けれど彼は花を買って妻とそれをみて心慰められたのでしょう。その方法はうまいなあ、と思うのです。

 少なくとも彼は自分の輪郭を確かめられる場所があることを知っていたようですし、共に花を見て親しんでくれる妻もいたことが、この歌からわかります。

 自分が小さくつまらない存在に見えた時は手当てが必要です。それに必要なのは、他人の手。

 「どうして」という苛立ちや、「どうせ」という悲しみと諦めで自分や他人を無力化する強力な呪文に対抗するには、自分ではない誰かと時間を過ごし、自分の形を取り戻すことです。

 その相手は家族でもいいし、パートナーでもいいし、友達でもペットでもいい。掛け値なしにあなたをあなただと見つめてくれる存在。

 人は誰しも、取るに足らない存在であると同時に、誰かや何かにとってかけがえのない存在です。この一見矛盾した内容を矛盾なく受け取れた時、人は大人になるのかもしれません。
                 (C.N)

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リレー書簡コラム『目次』 2023.11.13 リレー書簡コラム第43回「 友がみなわれよりえらく見ゆる日は」
2023.11.6 リレー書簡コラム第42回「雨に歌えば」
2023.10.30 リレー書簡コラム第41回「ときには立ち止まること」
2023.10.23 リレー書簡コラム第40回「前がダメなら上へ」
2023.10.16 リレー書簡コラム第39回「虎穴に入らずんば虎子を得ず」
2023.10.9 リレー書簡コラム第38回「スモールステップの罠」
2023.10.2 リレー書簡コラム第37回「好きと嫌いと苦手と得意」
2023.9.25 リレー書簡コラム第36回「言葉にできない」
2023.9.18 リレー書簡コラム第35回「苦手な人」
2023.9.11 リレー書簡コラム第34回「耳をすませば」
2023.9.4 リレー書簡コラム第33回「心地よいリズムで」
2023.8.28 リレー書簡コラム第32回「五感スイッチ」
2023.8.21 リレー書簡コラム第31回「力まず 軽く参りましょう」
2023.8.7 リレー書簡コラム第30回「あぁ、夏休み」
2023.7.31 リレー書簡コラム第29回「Message in a bottle」
2023.7.24 リレー書簡コラム第28回「カオスと灯台とボイジャー 」
2023.7.17 リレー書簡コラム第27回「混沌の中で」
2023.7.10 リレー書簡コラム第26回「結論は先延ばしで」
2023.7.3 リレー書簡コラム第25回「正しいこと、本当のこと」
2023.6.26 リレー書簡コラム第24回「心の旅」
2023.6.19 リレー書簡コラム第23回「ひとり時間 ひとり旅」
2023.6.12 リレー書簡コラム第22回「誰かのために整えること、一人でいること」
2023.6.5 リレー書簡コラム第21回「あれもこれも失敗じゃない」
2023.5.29 リレー書簡コラム第20回「解釈違いは健全に」
2023.5.8 リレー書簡コラム第19回「手紙に着いてのあれこれ」
2023.5.1 リレー書簡コラム第18回「愛を込めてお手紙を」
2023.4.29 リレー書簡コラム第17回「声の力」
2023.4.22 リレー書簡コラム第16回「意外性の模索」
2023.4.15 リレー書簡コラム第15回「チャットGPT」
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2023.3.18 リレー書簡コラム第11回「攻撃性の行方」
2023.3.11 リレー書簡コラム第10回「失われた遊び」
2023.3.4 リレー書簡コラム第9回「遊びごころ」
2023.2.27 リレー書簡コラム第8回「本気で遊ぶ」
2023.2.20 リレー書簡コラム第7回「場を作る」
2023.2.13 リレー書簡コラム第6回「息をつく場所」
2023.2.6 リレー書簡コラム第5回「三茶徒然日記」
2023.1.30 リレー書簡コラム第4回「さてさて、」
2023.1.23 リレー書簡コラム第3回「返信への返信」
2023.1.16 リレー書簡コラム第2回「返信」
2023.1.9 リレー書簡コラム『拝啓、みこと心理臨床処 様』第1回
2023.3.14 連載『家族だって他人』タイトル一覧表
2021.12.3 第8回 顧問なのかマスコットなのか
2021.11.6 第7回 時の過ぎゆくままに
2021.10.12 第6回 こだわりの…。
2021.9.10 第5回 出会うために、出会う。
2021.7.21 第4回 ほどよさのススメ―人間関係における圧について
2021.7.12 第3回 ケアに疲れたあなたへ
2021.6.30 第2回 気持ちに名前をつけてみる―ストレスと上手につきあうために
2021.5.21 第1回 人生のテキストと歴史という布 ―始まりの言葉に代えて―

 

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