危険なマインドフル
秋が近づいているのだろうか。陽が傾くのが早くなった。頬にあたる風が、涼やかになった。
次々にやってくる台風も、夏の終わりを知らせているのかも知れない。
とはいえ、毎日まだまだ暑い。外を歩くと、すぐにじっとりと汗ばむ。暑くてかく汗は、スポーツをしてかく汗よりもなんとなく不快なのはなぜなのだろう。
気温や湿度の高さを感じて、暑いなあ、汗ばんでるなあ、と感じること。湿度が不快で、ちょっとストレスに感じているなと気づいていること。これがマインドフルな状態とすると、気付かずに周囲の人間にイライラしているのはマインドフルでない状態であろう。
先日、三軒茶屋までの通勤バスが、路上駐車していた車のせいで10分以上遅れた。時間通りに運行したいであろう運転士さんはちょっと苛立ったご様子。車内アナウンスの声も、行き先を尋ねた客への返答も、いつになく刺々しい。
そこに乗ってきた高齢の男性が、周囲に聞こえる音量で、
「あれは自分の機嫌が悪いのを客にぶつけてるんだよ。よくないよなあ。」
とボヤき出した。
車内の空気が一瞬凍りついた後、周囲の乗客に訪れる、心と頭を無にする瞑想タイム。
自分自身にマインドフルに向き合うことは良いことだが、他人の状態をマインドフルに指摘してしまうことは、時として危険である。
先程の男性、次の停留所でバスから降りていく数人の背中を見送りながら、
「仕方ないね。俺はもう少し乗っていくよ。」
と言われたあと、口をつぐまれた。
このとき、誰もが「早く着かないかなあ」と思っていたことだろう。
マインドフルな時間は、ひとりのときに、ゆっくりと取りたいものである。
(M.C)
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