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過去という亡霊


 カウンセリングとは一体何をするのか、と思われる人は多いと思う。かくいう私も、国家資格を持ちながら、カウンセリングとはこれである!と言い切れはしない。

 ただひたすら、今ここにいるクライアントの声を聞き、今ここにある自分とクライアントのあいだで起こっていることに目を凝らすこと、というのが今のところの手応えというか実感である。

 「今ここ」、英語で言うと「Here and now」。まず、これを維持するのが存外に難しい。それはなぜか。

 今を形作っているのが、過去だからである。

 人には歴史がある。文脈と言い換えてもいい。それがその人をカウンセリングに導くのだ。具体的にはどうするかと言えば、その人の歩いてきた文脈について、ざっくりと、カウンセリングを始める前の第0回に聴く。インテーク面接というものである。ここで聴くのはあくまでもざっくり、である。それはそうだ。みこと心理臨床処ではインテークに90分いただいているが、これは人ひとりの人生について深く聴くのには、当たり前だがあまりに短い時間である。

 ではどうするか。

 回を重ねるたび、今ここに意識を置きながら話を聞いていくと、時々亡霊のように過去が立ち上がってくるのだ。大きな矛盾ではあるが、今を考えるときには、経験された過去が目の前に立ち現れることがある。それは怖かった時間かもしれないし、焦燥にまみれたものかもしれない。逆に、涙が出るほど懐かしく慕わしい時であるかもしれない。しかし過去がどんなものであったにせよ、それは今はもうないものだ。そういう意味で、過去は亡霊のようだなあと思うことがよくある。過去には確かにあったけれど、今は実体もなく目の前にもいないもの。それは、本当にこれから訪れるかどうかよく分からない未来よりも遥かに強い力を持っているとすら思う。

 けれどその過去の強さに負けないで今を生きる権利と義務が、私たちにはある。クライアントのその道行きを支えるために私たちカウンセラーはスキルを磨き、知識と経験を蓄える。

 思い起こそうとするだけで圧倒されてしまうような過去でも、歯噛みしたくなるような感情を呼び起こされたとしても、今と過去とは全く違う。私たちはどんな過去をも生き延び、今ここにいる。まずはそのことに感謝しよう。

 残念ながら、過去は消えたりしない。しかし読み替えて新しい文脈を生み出す種にすることはできる。そのための第一歩が、亡霊がいることを認めることなのだと思う。
               (C.N)

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