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二の腕が冷える話


「そんなに短いの着てたら冷えるでしょ」 

二十歳前後の頃、母によく言われていたセリフである。「そんなに短い」のは、袖だったり、丈だったりした。つまり、夏に、私がタンクトップやミニスカート、ショートパンツなどを着ていて、母に注意されていたのだ。

人に見られるとか、はしたない、とかではなく、「冷える」と母は言っていた。若かった私には、何が冷えるのかさっぱりわからなかった。こんなに暑いのに、どうして冷えるのか。母は内心、他の理由で私の服装を注意しているのではないか、とさえ勘ぐったりした。そして、体感としては全く冷えないので、気にせず、夏の間中キャミソールや丈の短いワンピースを着ていた。

時は流れ、2025年6月某日、「今日の最高気温は35℃です」と言われ、半袖(仕事なのでさすがにタンクトップではない)を着て出かけ、職場でパソコン仕事をしていたら、唐突に体感してしまったのだ 「冷える・・・!」 を。暑いはずなのに、妙に二の腕が冷えるのである。

なんでだろう・・・ 今までこんなことなかったのに・・・ としばらく考えて・・・「ああ!」とついに気づいてしまった。二の腕の皮下脂肪が「冷える」のである。
若い頃には、二の腕に皮下脂肪なんてついていなかった。だからあの頃は、この「冷える」が全然わからなかったのだ。そして母は、なんの含みもなく、(おそらく体験に基づいて)、娘の腕や脚が冷えるわよ、と忠告していたのだ。ああ、お母さん、今わかったよ、と言いたいが、離れて住んでいる母にわざわざ電話をかけて言うようなことでもない。

気がついたら、大人の階段を一段とばしで駆け上がっていたような気分である。こんなに遠くまで来てしまったのね。

そのうち、目が疲れて文字が読めないとか、次の日が仕事だからその日は出かけられないとか、気がついたら、本の同じページの同じところを読んでるとか、昔は「何言ってるの?」と思っていたことが、全部分かるようになるのだろうか。なるのだろうな。

次の日が仕事だからその日はだめ、って、「え?次の日が仕事ってことは、その日は休みなんでしょ?」と今でもちょっと思うが、だめなんだよね、体力的にも、気持ちの余裕的にも。

体力が落ちると、自信がなくなって、新しい挑戦(結果がどうなるか、過去の経験からは見通せない)が出来なくなる。そのかわり、知っていることは、格段に多くなっているので、知っていることの中から選ぶだけでも、結構楽しく暮らせる。
長い長い大人の階段も、半分以上登ってくると、今までの歩みも見渡せるし、今後もゴールも、ずいぶんはっきり見えてくる。そして分かって来た、母の言葉。

お母さんの言うことって、案外ただの思いつきで、ただの日常の気づきだったりしたんだね。自分のことのように、娘に注意していただけで、深い意味なんかないことだったんだ。(いや、たまには熟慮の末に言ったこともあっただろうけど。)

なんだか、等身大の母が見えた気がする、二の腕が冷える夏(笑)
薄い羽織をさっそうと纏って、クーラーの風を切って、元気に大人の階段を登り続けましょう。人生は一方通行、引き返すことはないからね。

                   (M.C)

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