下り坂を行く
人生には山あり谷ありと言われるように、生きていれば必ず坂を下る時期が訪れる。
山を登る時は、辛くても頂上というゴールがある。しかし、下り坂では何を目指せばいいのだろうか。
目標に向かって頑張ることばかりに慣れた私たちは、下り坂が続く道で、不安だけでなく喪失感や落胆を抱えながら進むことが多いのではないか。焦りのあまり、転がり落ちるように進みたくなったり、うずくまって動けなくなったりすることもあるだろう。あるいは、下り坂に抗って登ろうとすることもあるかもしれない。
だが、行く先が下り坂であっても、ゆっくりと自分のペースを確かめながら歩いていくと、違った景色が見えてくるかもしれない。たとえ到着地点が同じであっても、一気に落ちるのと、ゆっくり自らの足で下っていくのでは、大きな違いがあるはずだ。
たとえば、ちょっとした不調を考えてみよう。なかなか良くならず、下降していく感覚は、不安や「今までできていたことができなくなる」という恐怖でいっぱいになる。そうなると、次々と悪いことが頭に浮かび、気持ちも塞ぎ、悪循環に陥りがちだ。
そんなとき、以前の自分と同じようにはいかなくても、「今の自分にとって心地よく、ちょうどいい加減はどこか」と考えたり、「どんなことなら無理なくできるか」を模索したりできれば、少し違ってくるかもしれない。
あるいは、今まで全く目に入らなかった新しいことや、気にも留めなかったものに新たな価値を見出せるかもしれない。また、下り坂を下りきった後に、「これからどう生きていくのか」を考えるきっかけにもなるだろう。
ただ、そうした前向きな考えを一人で持つのは少し難しい。下り坂で足を取られないように歩くだけで精一杯になり、周りを見る余裕がなくなってしまうからだ。そんなとき、一緒に下り坂を歩いてくれる人、道に咲く花を教えてくれる人、給水ポイントのようなささやかな心遣いをしてくれる人や場所があると、心に余裕が生まれる。
そうすれば、心細い下り坂の途中でも小さな楽しみを見つけたり、今までとは違う自分でもいいと思えたりするはずだ。
ゆっくり、ゆっくり下り坂を進んでいこう。納得できる道は必ずあるから。
(K.N)
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