人生初がまだあった話
人生初のことなどそうそうないと思っていた。それが意外とあるのだと思ったのは、この春オフィスの引越しという大仕事を成し遂げたからである。
身一つでの引越しや家族で引越しの経験は人並みにあるし、小さなオフィスなので楽にできるとたかを括っていたらそれがそうでもなかったのだ。まず荷造りが難しい。
3人のユニットで営んでいる小さな庵のようなオフィスなので、荷物なんてそうそうないと思いきや意外とあった。主に本と雑貨が主だが、私が荷物量を見誤り、さらにその重さもあまり考えずに段ボールに詰め込んだら、他のメンバーからビシッとダメ出しを食らった。そりゃ本は重いよね。
2点目。身一つなら捨てる/捨てないの判断は容易だが、3人それぞれが必要としているものをオフィスに持ち込んでいるので、とりあえず全部を詰め込むことになった。私的な引越しだと、私は捨てに捨てまくるので(それまでにちゃんと捨てようとか普段からいらないものは捨てておこうとかその度にいつも思うのだがこれがなかなか難しい)、その点でも慌ただしさはあったが面白みもあった。「え、これ持っていくんだ」というものもいくつかあったことは秘密である。
そして部屋を設えるということは、特にカウンセリングに使う部屋を整えるということは、備品だけでなく居心地とか入ってきた時の印象とかそう言ったものを細かく検討する必要がある。今は少しずつその作業をしているのだが、それもまた楽しい。本当に、同じものでも置き場が変わると印象がガラリと変わるのだ。模様替えの楽しさはここにあるのかもしれないなと、改めて思う。
3人でオフィスを開くという作業と、そのオフィスを移動させるということを、多分私は同じように考えていたし、だからこそ新鮮味とか人生初だとかそう言ったことを思わなかったのだろう。考えてみたら、職場の引越しは人生初である。自分が職を変えるとか自分は身一つで勤務場所だけが変わるとかはこれまでもあったが、ものと共に自分たちの居場所が動くというのは人生初である。人生の折り返し地点近くになると流石に人生初のことなどそうそうないと思っていたが、そうでもないことに改めて気付かされた。考えてみたら、毎日が人生初なのに。
これは私だけではないと思うが、物事が習慣化すると何故か毎日が同じようだと感じて物憂くなったりだるさを感じたりすることがある。が、本当はそんなことはないのだ。今回の引越しでそれを強く感じた。
引越しというダイナミックな変化と、部屋の設えやレイアウトの変更というマイナーチェンジは、それを感じさせるのに十分な刺激だったということだ。
変化は大きくても小さくても刺激になるし、刺激を受けるとそれに反応する心身は当然疲れるので、引越し後は大変よく眠れた。寝付きの悪い私にとっては珍しいことである。
と、ここまで書いてきて、古典によく出てくる方違え(占いでよくないとされた方角を避けて出勤する道を変えたり家を変えたりすること)は、意外と合理的なのかもしれないと思い当たった。部屋を変えるのは大きな気分転換になるが、大きすぎるとストレスだ。方違えくらいがちょうどいいのかもしれない。
ちなみに我らが庵は変わらず三軒茶屋の一角にあって、いい感じの方違えとも言える。新しい生活に少し疲れてきた時に思い出して、ちょっと寄ってみていただけたら嬉しい。
(C.N)
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