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失せ物探し


 探しものをするのが得意な人と、苦手な人がいる、と私は思っている。普段から物が整理整頓されていて、何がどこにあるかすぐ分かる、ということではなくて、何か勘のようなものが働いて、不思議と物を見つけ出せる人、というのがいる。

 まあ、私の母が、そういう人なのだ。何年も前の話だが、母方の祖母が亡くなった。生前から祖母が「遺影に使ってほしい」と言っていた写真があったのだけど、それを祖母がどこにしまっていたか、を誰も知らなかった。私の母は20代の半ばで結婚して家を出てから、何十年も祖母とは一緒に暮らしておらず、最期まで同居していたのは伯父夫婦だった。当然、母をはじめとする親族が集まる前に、伯父夫婦が写真を探していたが、見つからなかった。そこで、集まった母や、伯母達が

「さて、本腰を入れて写真を探すか」

となったとき、母は最初に開けた引き出しから、祖母の遺影用の写真を見つけた。誰かの法事のときに、きれいに着物を着て、髪をセットして、微笑んでいる祖母の良い写真だった。

「お母さんは探し物が得意なのよー」

と、母の自慢のエピソードである。子どもの頃から、父が家の中で何かを失くすと、母が「どれどれ」と探しに行って、

「まったく、お父さんはどこを探したのよ」

といいながら、探しものを見つけて戻って来ることがあったような気がする。あまりに日常過ぎて、忘れてしまっているが。子どもの頃は、ただなんとなく、「お母さん」という生き物は、探し物が得意なのだ、と思っていた。

 それから十何年たって、自分が「お母さん」になったとき、自分にはそんな特別な力は備わっていなかった。買ったばかりの半年の通勤定期が失くなって、狭い家の中を散々探したけれど見つからず、困り果てて、当時2歳だった娘に

「何処にあるか知らない?」

と聞いたら、

「知ってるよ!」

と、娘がにこにこしながら定期を持ってきたときはびっくりした。私はお財布を忘れたときのために、小銭入れになっている小さなパンダのぬいぐるみを、パスケースに付けていたのだが、そのパンダを気に入った娘が、自分の宝物入れにパスケースと一緒にしまって、どこかに隠していたらしいのだ。そんなに大事にしまってあるとは思っていなかったので、当然見当違いのところを散々探していて、見つかるわけもなかった。

 最近になって、子どもたちも大きくなり、思考や行動のパターンが2歳の頃よりだいぶ読みやすく、予測しやすくなったため、仮に探しものを頼まれても、見つけやすいだろうとは思うが、頼まれないので分からない。

 一方、私の夫は探し物が下手なので、彼が家の中で失くし物をすると、見つけるのは私の役割である。しかし、夫の探し物は、たいていそんなに探さなくてもすぐに見つかる。夫の行動や思考はだいたい読めるので、家の中くらいなら何処に置いたのか簡単に推測できるからだ。

 なので、他人が失くしたものを見つける才能というか、素晴らしい勘のようなものは、特に受け継いでいないのだろうと思う。母が父の物を見つけて来られたのも、単に父の行動をよく知っていたからというだけかもしれないが、私達家族は「お母さんは探し物が得意だ」と思い込んでいた。母自身も。だから、たまたま、偶然、祖母の写真を見つけたときも「探し物が得意」だからだ、とみんなで納得し、母のお気に入りのエピソードになった。思い込みの力って、あるよね。だから自分は◯◯が得意、と思っていることは、いいことだと思う。みなさんが今就いているお仕事がなんであれ、「この仕事向いてる」と思っておくとか、ね。

 ちなみに私の母は、整理整頓は苦手で、そちらの方は私にもしっかり受け継がれている。悲しいことに。
                 (M.C)


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